J SPORTSサイクルブログ

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トム・ボーネン、人生最後のパリ〜ルーベへ

こんにちは、宮本あさか@Compiegneです。

2017年パリ〜ルーベで、トム・ボーネンが現役を退きます。

「去年ルーベを走り終えた時に、決めたんです。この世界で一番美しく、僕が愛してやまないレースで、自転車を降りよう、と」(2017年チームプレゼンテーションインタビューより)

 

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2017年ルーベ前日のチームプレゼンテーションにて。 photo: Yuzuru SUNADA


2002年の初出場でいきなり3位というセンセーショナルな成績を出して以来、優勝4回、2位2回、トップ10入り4回。それ以外はリタイアが1回と、24位(ルーベ人生最悪の成績)が1回だけ。しかもご存知の通り、優勝回数4回は、1970年代に活躍したロジェ・デヴラーミンクに並ぶ、史上最多タイ記録です!!

ここでプチ情報。デヴラーミンクが4度目にルーベを制したのは、1977年、今からちょうど40年前でした。つまりスタート地がコンピエーニュに移行した初年度です。だからこそコンピエーニュ市長は、なにやら運命を感じている様子。

「コンピエーニュが初めてパリ〜ルーベを迎え入れた年に、デヴラーミンクは最後のルーベを勝ち、史上最多記録を樹立しました。コンピエーニュがスタート地を受け入れて40周年目の今年は、きっと、ボーネンが最後のルーベを勝って、新たな史上最多記録を打ち立ててくれるはずです」(2017年チームプレゼンテーションインタビューより)

その市長からは、パリ〜ルーベ前日に開催されたチームプレゼンテーションの壇上で、ボーネンへ記念の金メダルが授与されました。また開催委員会からはパヴェをかたどったチョコレートと、2005年、2008年、2009年、2012年産のワイン――つまりボーネンパリ〜ルーベを制した年――が贈呈されました。開催委員長のクリスティアン・プリュドム氏によれば、「レース後にも、さらにプレゼントがあるよ!」とのこと。

 

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元開催委員長ルブラン氏から優勝年のワインボトルを受け取る。 Photo: Yuzuru SUNADA


パリ〜ルーベは、世界でここにしかない、特別なレースです。他のどのレースにも似ていないし、なにより自転車競技場でフィニッシュを迎える、唯一のクラシックです」(2017年チームプレゼンテーションインタビューより)

そう、自転車競技場で、ぎっしり詰めかけたファンたちの歓声を浴びながら、両手を天に突き上げるというのは、ひときわ特別な経験のようです。

 

3人によるスプリントを制した、つまりフィニッシュラインギリギリまでサスペンスが続いた2005年大会や2008年大会では、残念ながら観客の声を堪能することはできませんでした。ラスト15㎞を独走した2009年大会でさえも、「ラスト数メートルまで落ち着きませんでした。最後の最後で追いつかれてしまわないよう、全力で走り続けたんです」(2009年優勝記者会見より)という切迫した状況でした。しかも、2009年大会は「ライバルたちが次々と落車したせいで勝った」と妙な批判を受けたものですから……。

だから2012年大会は、誰からもぐうの音も出ないほどの、とてつもない勝ち方を披露しました。「4度目の勝利なんだから、ものすごく特別なやり方で勝ちに行かない手はないんじゃないか?」って考えた末に、53㎞という伝説的な長さを、たったひとりで突っ走ったのです!

そしてボーネンは、背後を気にすることなく、轟音のような歓声に包み込まれたヴェロドロームへと、単独で飛び込みました。

「ゴール前に観客の前を2回通れるのは、この競技場だけです。そんな絶好の機会を、十分に満喫しました。この瞬間こそが、パリ〜ルーベをすごくスペシャルなものに変えてくれるんです」(2012年優勝記者会見より)

 

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2012年パリ〜ルーベ、4度目の栄光。 Photo: Yuzuru SUNADA

2017年4月9日、トム・ボーネンに、そんなスペシャルな瞬間は訪れるでしょうか。ルーベ史上最多の5勝目をもぎ取り、5つめの石畳トロフィーを手に、華々しく引退することができるでしょうか。

……たとえボーネンが勝てなかったとしても、きっとルーベ自転車競技場のファンたちは、まるで勝者のようにボーネンを大歓声で迎え入れるに違いありません。

宮本あさか@Compiegne

 

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近づくのも大変なほどごった返したメディアゾーン。ボーネンはフランドル語×2回、英語、仏語インタビューをそれぞれにこやかにこなして、帰って行きました。